〜同じ場所を見ていなかった朝〜
皆さんこんにちは、夢の街物語 第12回です。
【はじめての方へ|このシリーズについて】
「夢の街 Storyscape」は、WALLEVEで実際に起きた制作や試行錯誤を、「夢の街」という架空の街の出来事へ置きかえて綴る短い物語シリーズです。
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今回の語り手は、街の案内人「ユメミ」です。
見本の茶屋「とまり木」が建った翌朝、窓の灯りはまだ淡い金色を残していました。
わたしがWalleveスタジオを訪ねると、わんこは一枚の小さな札に「昨日の続きを」と書き、街の工匠ガクへ渡すところでした。
茶屋には、まだ整えたいところが残っていました。看板の高さ。棚に置く品書き。入口から灯りまでの見え方。ガクなら、昨日の光の図を見ながら、すぐに手を入れてくれるはずでした。
けれど、朝が少し進んでも、茶屋からはハンマーの音が聞こえてきません。
「ガク、どうしたのかしら」
わんこが呼びかけると、離れた場所から返事が届きました。
「続きを探してるんだが、図も板も見当たらねえ。ここには何もないぞ」
わんこは首をかしげました。「昨日の続きよ」ともう一度伝えます。けれどガクには、昨日の印がひとつも見えていないようでした。同じガクなのに、まるで初めて茶屋の話を聞いたような返事が戻ってきます。
銀色の鞄を持つ手が鈍くなったわけでも、昨日のことを忘れたわけでもありません。それなのに話はかみ合わず、時間だけが過ぎていきました。
わんこの声には、だんだん焦りが混じりました。
「光の図は、昨日の机にあるはずなの。茶屋の窓も、棚も、そこに残っているでしょう?」
「机ならある。だが、まっさらだ。窓も棚も見えねえ」
その言葉を聞いたルーが、壁に掛けられた街の見取り図へ近づきました。銀色の指先で、ガクのいる場所と、とまり木の建つ場所を順に示します。二つの光は、遠く離れていました。
「見ている工房が、ちがう」
ルーのひと言で、部屋がしんとしました。
わんこが朝に渡した札には、「昨日の続きを」としか書かれていませんでした。どの工房へ行き、どの机を見ればよいのか。その大切なひと言が抜けていたのです。
ガクは、何も置かれていない別の工房で、ずっと続きを探していました。わんこは、とまり木のそばで、ガクなら分かっているはずだと思っていました。同じ仕事を思い浮かべながら、二人は朝から違う場所を見ていたのです。
「ごめんなさい。場所を伝えたつもりになっていたわ」
わんこが新しい札に、とまり木の場所と、光の図を置いた机の印を書き加えました。
しばらくすると、石畳の向こうから、銀色の鞄が朝の光を返しました。ガクです。いつもの机に広げられた光の図を見ると、困っていた顔がすっとほどけました。
「なんだ。ちゃんと、ここにあったじゃねえか」
ガクがハンマーを振るうと、止まっていた朝に、カチリと小さな音が戻りました。
頼もしい手でも、見ている場所が違えば、同じ続きを始めることはできません。「何をお願いするか」だけではなく、「どこを見てほしいか」まで渡して、はじめて道はつながるのでした。
帰り道、とまり木の看板が朝の風に揺れていました。その下には、わんこが書き直した小さな札が掛かっています。次に誰かへ続きを頼むとき、同じ場所から歩き出せるように。
――夢の街の案内人 ユメミの記録
今回の“もと”になった出来事
今回の物語のもとになったのは、ホームページ制作の続きをAIの相棒へ頼んだ朝の出来事です。前日までと同じ相棒へ「続きをお願い」と伝えたのに、返事がかみ合わず、昨日の内容も伝わっていないように見えました。
原因は相棒の調子ではなく、こちらが見てもらう作業場所を変えていたことでした。いつもの資料があるフォルダではなく、何も入っていない別のフォルダを開いたまま頼んでいたため、相棒には前日のファイルも決まりごとも見えていなかったのです。原因に気づくまで、作業は半日ほど止まりました。
物語では、ガクが別の工房で光の図を探し続ける朝へ置きかえました。相手が賢くても、「何をしてほしいか」だけでは足りません。「どこにあるものを見て進めるのか」までそろえて渡すこと。任せる仕事が増えるほど、その小さなひと手間が大切だと分かった記録です。
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